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最高裁判所第三小法廷 昭和47年(オ)704号 判決

上告人

和歌山県

右代表者

大橋正雄

右訴訟代理人

岡崎赫生

被上告人

森本熈

外一名

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人岡崎赫生の上告理由について。

原審の適法に確定した事実によると、(一) 一審被告大谷安雄は、昭和四〇年一〇月一七日午後、大型貨物自動車を運転して国道一七〇号線を大阪府方面から南進中、橋本市小原田一一七番地山下弥七方付近において事故を起こし、右前車輪やハンドル等に故障を生じたので、同国道の同市小原田一六番地菱田産業石油倉庫前まで車を移動させ、南方に向かつて道路の左側端より左前車輪が約1.2メートル、左後車輪が約1.1メートルの間隔、道路中央線より左方に右前車輪が約0.53メートル右後車輪が約0.16メートルの間隔をそれぞれおき、道路に平行でない位置で駐車し、これを放置した、(二) ところが、それより約八七時間後である同月二一日午前六時過ぎごろ、訴外森本肇は原動機付自転車を運転して同国道の左側部分を国鉄橋本駅方面に向かつて時速約六〇キロメートルで南進中、前記大型貨物自動車の荷台右後部に激突し、頭蓋底骨折により即死した、(三) 国道一七〇号線は、大阪府高槻市から和歌山県橋本市に至り、国道二四号線に通ずる幹線道路であつて、本件事故現場付近で幅員7.5メートル、歩車道の区別のない舗装道路になつており、和歌山県下では国道二四号線に次いで交通量が多く、定期バス路線になつている、(四) 国道一七〇号線の和歌山県下部分は、和歌山県知事が国の委任事務としてその管理責任を負い、同県橋本土木出張所において管理事務を担当し、管理に要する費用は全額上告人の負担すべきものとされていたが、当時同出張所にはパトロール車の配置がなく、工務課の技術員が物件放置の有無等を含めて随時巡視するだけで、常時巡視はしておらず、本件事故が発生するまで、故障した大型貨物自動車が道路上に長時間放置されたままであつた、というのである。

おもうに、道路管理者は、道路を常時良好な状態に保つように維持し、修繕し、もつて一般交通に支障を及ぼさないように努める義務を負うところ(道路法四二条)、前記事実関係に照らすと、同国道の本件事故現場付近は、幅員7.5メートルの道路中央線付近に故障した大型貨物自動車が八七時間にわたつて放置され、道路の安全性を著しく欠如する状態であつたにもかかわらず、当時その管理事務を担当する橋本土木出張所は、道路を常時巡視して応急の事態に対処しうる看視体制をとつていなかつたために、本件事故が発生するまで右故障車が道路上に長時間放置されていることすら知らず、まして故障車のあることを知らせるためバリケードを設けるとか、道路の片側部分を一時通行止めにするなど、道路の安全性を保持するために必要とされる措置を全く講じていなかつたことは明らかであるから、このような状況のもとにおいては、本件事故発生当時、同出張所の道路管理に瑕疵があつたというのほかなく、してみると、本件道路の管理費用を負担すべき上告人は、国家賠償法二条及び三条の規定に基づき、本件事故によつて被上告人らの被つた損害を賠償する責に任ずべきであり、上告人は、道路交通法上、警察官が道路における危険を防止し、その他交通の安全と円滑を図り、道路の交通に起因する障害の防止に資するために、違法駐車に対して駐車の方法の変更・場所の移動などの規制を行うべきものとされていること(道路交通法一条、五一条)を理由に、前記損害賠償責任を免れることはできないものと解するのが、相当である。したがつて、これと同旨の原審の判断は、正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(関根小郷 天野武一 坂本吉勝 江里口清雄 高辻正己)

上告代理人岡崎赫生の上告理由

原審判決に判決に影響を及ぼすこと明かな法令違背がありと思料致します。

原審判決は本件故障車を道路管理者としての上告人が一時も早くこれを排除する看視措置をとらなければならないものとなし、故障車の八七時間位の駐車を以つて国家賠償法第二条第一項の道路の管理に瑕疵があつたものとしているが果してそうであらうか。

原審の言う排除する看視措置とは具体的にどの様な措置を言うのか、その意味が甚だアイマイであつて特に目立つた標識をつけなかつた点を指摘するのか、或は故障車の排除迄包含するのか明らかにしておらず、更に故障車を排除する看視措置をとるべきものは県橋本土木事務所か或は警察官であるのかその区別は一切不明確と言わなければならないが、本件に於る警察官の措置の不適当(本件は単なる故障車ではなく事故を惹起して故障した車であるから警察官は当然実況見分をしている)については道路管理の瑕疵として直接道路管理者としての上告人に於てその責を負わなければならない理由はないものと考える。(いう迄もなく本件と公安委員会の責任を県が弁償すると言う問題は別個である)

従つて残る処、県橋本土木事務所が本件故障車を一時も早く排除する看視の措置をとらなかつた点に法律上の問題があるか否かの点になるが仮に排除する看視の措置を排除そのものを言うとすれば県橋本土木事務所のとり得べき権限としては恐らく道路法第七五条及び行政代執行法に基き同法第三条の手続をした上之を取除く外、適法な方法がないのではないかと考える。

之に反して道路交通法第五一条は明白にかかる場合に於る警察官等(警察官及び交通巡視員)のとり得べき措置を規定している処より故障車の駐車に基く危険の排除の問題は道交法に基く警察官等の措置の問題であつて道路管理者の問題ではないと言うべきであらう。

道路法によると、その第三章に道路の管理を規定し第一節で道路の管理者としてそのうちの第一二条に国道の新設者又は改築者を規定し第一三条で国道の維持修繕その他の管理者を規定しているが此の規定の趣旨形式から見て道路の管理とは(1)道路の新設又は改築(2)維持修繕(3)災害復旧事業(4)その他の管理に限定されていると言うべきでそこで問題は所謂故障車を排除する看視の措置が右(4)のその他の管理に該当するかどうかであるが同条の管理の対象は道路の構造物及び之に準ずる物であつて本件の様に故障が排除されれば即時運行開始を予定される故障車の駐車を含まないものと言わなければならない。

結局原審は道路交通法に基く警察官の措置の不手際の問題を道路管理者たる県知事の道路管理の不手際の問題と混同して誤つて国賠法第二条を適用して被上告人の請求を一部認容した違法の判決と言うべきで到底破毀を免れ得ないものと考え本件上告に及んだ次第であります。

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